「80's エイティーズ ある80年代の物語」読書感想

こんにちは、橘玲信者のゴッホです。

橘玲さんの新作が出ていたのでさっそく読んでみた。彼の唯一の(おそらく)自伝的作品とのことだ。

一貫してその時代の代表的な出来事ともに橘玲さんの過去を振り返る。これまで彼の経歴はブログや作品にところどころ登場していたものの、一貫した内容はベールにつつまれていた。

早稲田大学の第一文学部卒業で元宝島の編集者、海外投資を楽しむ会の創設メンバーでその活動をきっかけに小説「マネー・ロンダリング」でデビューしたということしかぼくは知らなかった。

マネーロンダリング (幻冬舎文庫)

そんな彼の自伝とあって、ファンにはたまらない一作だろう。学生時代から語られるエピソードの中で、彼の作品のルーツを知ることができる。

 

プロローグについては彼のブログで公開されているので紹介する。

物語は1970年代末の高田馬場駅の喫茶店で彼が大学の講義をサボって本を読んでいるところから始まる。

ある日その店のBGMで、これまで聞いたことのない音楽が流れた。その歌声は一瞬でぼくを虜にしたが、誰が歌っているのかはわからなかった。
その何日か後に、またその音楽が流れた。ぼくは思い切ってカウンターに行くと、美しい女性に曲の名前を訊いた。
彼女はちょっと驚いた顔をすると、「ノーウーマン・ノークライ」と教えてくれた。
ボブ・マーリー。わたしも大好き」
誰にでも、なぜか記憶に刻み込まれて忘れられない些細な出来事がある。これはそんな私的な物語だ。

引用元:『80’s(エイティーズ)』プロローグ No Woman, No Cry – 橘玲 公式BLOG

ボブ・マーリーは彼の小説「永遠の旅行者」でも登場している。なぜボブ・マーリーが登場しているのかずっと疑問だったのだけど、 彼にとって思い出の曲だからだった。

天井のファンを回し、オーディオのスイッチを入れ、地元のFM局に合わせる。オリジナル・ウェイラーズ時代のボブ・マーリーの懐かしいナンバーが流れてきた。

レゲエの王様ボブ・マーリーはジャマイカのゲットーで育ち、奴隷として売られてきた黒人の哀しみを歌い、実在のエチオピア皇帝ハイル・セラシエを神と崇め、三十六歳で脳腫瘍で死んだ。その彼の歌が、いつのまにか楽園の島の定番ソングになっている。

引用元:永遠の旅行者〈上〉 (幻冬舎文庫)

この永遠の旅行者はぼくにとって初めて読んだ橘玲本で、「マネー・ロンダリング」「黄金の羽の拾い方」「残酷な世界で〜」と当時発売されていた橘玲本を次々に読破し、後に発売された本もほとんど読み、キャリア観を身に着け、今の自分があるのでこの本には感謝してもしきれない。

 

永遠の旅行者と言えば、統合失調症精神分裂病)の女の子がメイン・キャラクターとして登場し、その病院の風景や病状についてもリアルに描かれている。

本書を読むとこれは橘玲さんが彼のキャリアの中でこの病気の患者との座談会を企画して本にしていたので統合失調症について詳しいということがわかった。

「精神病」をテーマに選んだのは、心理学や精神分析学の難しい話ではなく、精神病の「現場」がどのようになっているのかを知りたいとずっと思っていたからだ。そこで考えた企画のひとつが、統合失調症( 当時は精神分裂病といった)の患者の座談会だっ た。なぜこんなことを思いついたかというと、篠原くんがこの病気で入院した経験があったからだ。

引用元:80's エイティーズ ある80年代の物語

 

彼のキャリアの中で、海外の宝くじに関する雑誌を作って代理販売する仕事に関する仕事が登場する。その中で彼はドイツ後の資料を翻訳してマニュアルを作るという仕事に携わる。 

ビジネスチャンスを嗅ぎつけた赤川さんは、一人で飛行機に飛び乗って、ドイツの宝くじ会社と海外販売の独占契約を結んできた。ぼくたちの仕事は、赤川さんが持ち帰った 大量のドイツ語の資料から宝くじの仕組みや買い方、当せん金の受け取り方をマニュアルにすることだった。ドイツ語はまったく知らなかったけれど、文法が英語と似ている ので、辞書を引けば宝くじの説明くらいはなんとか理解できるのだ。

引用元:80's エイティーズ ある80年代の物語

 

さらっと書いてあるがこれはなかなかすごい。彼がロシア文学科を卒業している(ほとんど勉強していないとあるが)こともあるだろう。これで、ウォルター・フロックやエリック・バーカーなどの海外の書籍の訳文や監訳などをサラッとできていた理由がわかった。それ以外にも彼のメルマガで度々紹介されている様な、和訳されていない文章を原文で読むことができるので知の最前線にいるのだろう。

不道徳な経済学──擁護できないものを擁護する (講談社+α文庫)

残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する

世の中の仕組みと人生のデザイン l 橘 玲 | DPM(ダイヤモンド・プレミアム・メールマガジン)

 

亜玖夢博士の経済入門という書籍の中で下記の様な描写がある。

亜玖夢三太郎博士の輝かしい経歴のなかで、一九六六年は特別な年であった。二千年に及ぶキリスト教文明の呪縛が解け、 水瓶座(エイジ・オブ・アクエリアス)の時代が幕を開けたとされるこの年、少壮の亜玖夢博士は サンフランシスコ郊外にあるバークレーの大学に招聘され、ラブ・ジェネレーションの勃興を間近に体験する機会を得た。この年、サンフランシスコのフィッシャーマンズウォーフではじめてのトリップ・フェスティバルが開かれた。大ホールの中央に巨大な櫓が組まれ、五台の映写機と五十台のストロボ、巨大なスピーカーから映像と閃光、大音響の洪水が溢れ出し、その異空間でLSDをきめた数千の若者たちが踊り狂った。若き日の 亜玖夢博士はこの歴史的集会に参加し、伝説のロックバンド、グレイトフル・デッドの目の前で腕を振り、足を踏み鳴らし、宇宙の果てまでトリップした。

 引用元:亜玖夢博士の経済入門 (文春文庫)

この幻想的で魅惑的な文章に惹きつけられ、読んでから5年以上経った今も忘れられなかった。想像だけで書いたにしてはやけにリアルな描写だなと思っていた。

また、LSD大麻などのサイケデリック体験と自己啓発については彼のブログでも詳細が記されている。こちらもかなり詳細な内容となっている。

自己啓発の歴史(1) CIAとLSD – 橘玲 公式BLOG

 

本書を読んでその謎がとけた。彼は過去に合法・非合法を問わずドラックに関する企画に携わっていたのだ。

一九九三年三月に、青山さんたちと編集担当のMくんで、『気持ちいいクスリ』というムックをつくった。ビタミンからヘロインまで、合法・非合法を問わず、「クスリとはなにか」をニュートラルな立場から考えてみよ うという企画で、当時の風潮に乗ってベストセラーになった。

引用元:80's エイティーズ ある80年代の物語 

 

ちなみにこの「亜玖夢博士の経済入門」はマインドサイエンス入門とセットなのだが、彼の著書の中でも最高傑作の1つだと思う。

ゲーム理論、社会的証明、プロスペクト理論脳科学など知の最先端の概念を小説形式で分かりやすく解説している。

読まなくていい本の読書案内でもこれらの概念は題材とされていたが、イマイチ理解できなかった人は亜玖夢博士に聞いてみると理解が進むかもしれない。

「読まなくてもいい本」の読書案内 ――知の最前線を5日間で探検する

 

上記以外にも裁判所から出版差し押さえの仮処分を受けながら、書籍が本屋に並び売れまくった話やオウム真理教事件のさなか、教団に唯一取材ができるメディアとして教団に出入りした話など、興味深い話が多数掲載されている。

彼は編集者として数々のヒットを生み出していた。それ故に、作家としても成功できたのだろう。橘玲さんのファンには是非オススメしたい一冊である。

80's エイティーズ ある80年代の物語

80's エイティーズ ある80年代の物語