「専業主婦は2億円損をする」読書感想

金は鋳造された自由であるードストエフスキー

橘玲さんの新作を読了しました。彼が監訳した「残酷すぎる成功法則」に続き2冊連続で橘玲さん関連の本を読んだことになります。発売からわずか2〜3日でAmazonでベストセラーになっていたので大変売れていることでしょう。キャッチーでセンシティブなタイトルだし余暇時間のたくさんある専業主婦や専業主婦を持つ夫、専業主婦を夢見る婚活女子が本屋で見かけてハッとして立ち読みする姿が目に浮かびます。それでは、以下レビューになります。

■これまでの橘玲本とは一線を画する

約10年前に橘玲さん著の小説「永遠の旅行者」に出会ってから彼の本の魅力にハマり、貪る様に彼の作品を読んできた。新作も必ず読んでおり、ほぼ全ての作品を読んでいると言っていいだろう。本書は彼のこれまでのどの本とも違っていた。想定する読者が違うのである。

今回の最大の想定読者はタイトルにもある主婦である。そのためかマガジンハウスからの発行となっている。ちなみにwikipedeiaで彼の著作リストを見るとデビュー作の「マネー・ロンダリング」から何作か幻冬舎が続き、投資系の本はダイヤモンド社からいくつか出ており、その他にも集英社講談社や新潮社などから出版しているが一貫して対象はビジネスパーソンだった。(あとがきにもそう書かれている)

橘玲 - Wikipedia

橘玲本をたくさん読んだ人は少し違和感を覚えるかもしれない。平易な表現で書かれている箇所が多く、またこれまでの書籍だとよく登場していた「この話は○○にも書きましたのでそちらを読んだ人は読み飛ばしてください。」という注意書きも登場しない。初めて彼の書籍を読む人にも読みやすい内容になっている。

僕にとっての「永遠の旅行者」の様に、この本をエントリー本として、彼に魅了され過去の書籍を読みふける人が続出することを楽しみにしている。あとがきにも書かれているが、この本の次に読むべきは「幸福の資本論」だろう。本書は「幸福の資本論」の内容を女性向けにカスタマイズして書いたという側面もある。

■入念な準備

あとがきを読んで驚いたのが、この本の構想が立ち上がったのは2014年冬だったと言うことだ。発売が2017年11月なので3〜4年の期間を経て刊行ということになる。思いついたことをすぐに発信できる現代にあって、これほど長い歳月をかけて綿密に書かれた文章というのは貴重だ。1つ1つの文章に重みがあり、読みやすい構造・言い回しにしようと推敲に推敲を重ねられていることが文面から想像できる。

そして大量の文献が引用されている。日本社会での女性問題を扱った新書から海外の論文まで24つが参考文献として挙げられている。当然その背後には採用されなかったおびただしい数の文献が眠っているだろうから、橘さんがこの本を書くためにリサーチに費やした時間を想像するだけでも気が遠くなる。

「プロの作家だからそんなの当たり前だよ」と言われればそれまでだが、気の遠くなる時間を費やして調べたことのエッセンスがわずか1000円ちょっとと2〜3時間で読むことができる。現代に生まれたことに感謝したい。

■幸せになれない専業主婦

本の内容に簡単に触れておくと、タイトルにある通り、「専業主婦になることは生涯年収にあたる2億円をまるまる捨てることだ」という主張から「そもそも海外では専業主婦は時代遅れ」「専業主婦になると幸せになれない」という専業主婦になることのデメリットを展開する。幸せになれない数々の理由が挙げられているが、1番はタイトルにもあるお金である。専業主婦はお金がない。ドストエフスキーが言った様にお金がなければ自由もない。自由がなければ幸せもない。という見事な三段論法である。

その上で、日本ではどの様にして専業主婦が生まれているのか、彼女たちが専業主婦にならざるを得なかった日本社会の構造的な問題に触れている。女性の社会進出に関する話題では

驚くべきことに、日本の会社はいまだに「前近代」、すなわち江戸時代と同じようなことをやっていたのです。

 という日本社会への厳しい批判も登場する。これは女性だけでなく、女性がいる職場で働くビジネスパーソンも読むべき内容だろう。要約すると下記の様に紹介されている。

・日本の会社は残業時間で昇進を決めている。

・子供が生まれると自分の時間全てを会社に捧げる働き方はできない。

・結果、女性はちから突き燃え尽きて専業主婦になっていく。

■残酷な世界で生き延びる方法

 専業主婦が生まれてしまうのは日本社会の構造的な問題なので、今日明日に変えることはできない。としながらもそうした社会を前提にした上で自分だけが幸せになる裏技を彼は教えてくれる。これは「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」あたりから登場している「我々は幸せになるようにデザインされていない。でも、幸せになれる」というおなじみのロジックである。

・子育てを外注する

子供の世話で残業ができず、昇進できないなら子供の世話をアウトソーシングしてしまえばいいというシンプルなロジックである。家政婦や両親への外注。そもそも住み込みの家政婦が一般的な海外で暮らしてしまおうなんて大胆な案まで登場する。

フリーエージェントになって会社に縛られない生き方をする

子育てすると昇進できない働き方をそもそもやめてしまおうというコロンブスの卵的な発想である。フリーエージェントには誰でもなれるわけでないが、橘玲さんは過去の本でもフリーエージェントになるそのメリットやなり方について触れられており、今回は女性向けにフリーエージェントとしての働き方について解説されている。

■終わりに

いかがでしょうか?Twitterで「年収2000万円以下はあり得ない!」という3食昼寝つきの王侯貴族の様な生活を夢見る女性アカウントをよく見かけますが、本書では「お金持ちとの結婚を夢見て婚活することは当たりのない宝くじ売り場に並ぶようなもの」とバッサリ切り捨てています。また運良くお金持ちと結婚できたとしても、収入0の生活は自由がなく、幸福度も低い様です。

このブログを読んで少しでも本書に興味を持った方は、橘玲さんのブログにプロローグとあとがきが掲載されているのでそれだけでも読んでみてはいかがでしょうか?これから結婚する女子にも、もう結婚した女子にもためになる内容です。そして女子だけでなく、一生恋愛には縁がないだろうという男子以外は是非読んでみて下さい。

専業主婦は2億円をドブに捨てている | 橘玲 公式サイト

『専業主婦は2億円損をする』あとがき | 橘玲 公式サイト

専業主婦は2億円損をする

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