映画「ダンケルク」は戦争映画の常識を覆すかもしれない(ネタバレあり)

9/9より公開された映画「ダンケルク」を観てきました。この記事はネタバレの内容も含みますのでこれから映画を観ようという方で観たくない方は読まない方がいいかもしれません。

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ダンケルク」はクリフトファー•ノーランが監督で「ダンケルクの戦い」を描いた戦争映画。タイトルを聞いた時、「ダンケルクってなんやねん」と思ったのだが、「ダンケルクの戦い」は第二次世界対戦中の1940年5/24〜6/4の間に起きた史上最大の撤退作戦で、欧米では歴史の授業で繰り返し教えられ、「ダンケルク」と言えば何のことをいっているのか大半の人が連想できるのかもしれない。ダンケルクはフランスとベルギーの国境付近にあるという街で、そこからフランス軍とイギリス軍合わせて40万人を撤退させた大作戦だった様だ。作品は下記画像がダンケルクの街に舞うシーンから始まる。ドイツ軍によるイギリス・フランス軍への方位した。降伏せよというメッセージ。

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 出典:Dunkirk: Christopher Nolan proves that film fans still do get excited by posters | The Independent

クリストファー・ノーラン 流の戦争映画

クリストファー・ノーランと言えば、「インセプション」「ダークナイト」「メメント」あたりで有名だろう。どの作品もこれまでの映画界の常識を打ち崩すような手法で描かれて有名になり、興行成績も良かった。「メメント」は記憶がすぐになくなってしまう主人公の視点でスタートとラストシーンから始まる物語を交互に繰り返すという手法でとても斬新だった。また、脚本を彼一人が手がけるのは3作目。(フォロウィングインセプション

今回は、そんな彼が初めて戦争映画に挑戦するということで(史実に基づく作品も初らしい)どんな演出をするのかという視点で映画を鑑賞した。まず、特異な点として「撤退作戦」を扱っているという点が挙げられる。戦争映画と聞けばノルマンディ・上陸作戦を描いたスティーブン・スピルバーグの「プライベート・ライアン」、ベトナム戦争を映画板「地獄の黙示録」、最近だとイラク戦争を描いとクリント・イーストウッドの「アメリカン・スナイパー」などがあるが、どの映画にも共通のストーリーとして敵軍がいて戦い・打ち勝つというストーリーが挙げられる。しかし、ダンケルクは敗戦が確定したシーンからストーリーが始まる。主役級のトミー(フィオン・ホワイトヘッド)は冒頭5分でライフルを失ってしまい、敵に対して攻撃することなくラストシーンを迎える。迫りくる敵に対して個人ではどうすることもできず、なすすべなく逃げることしかできない人間の無力さが描かれている。また、敵役が全く出てこない。敵として出て来るのは駆逐艦や飛行機が爆撃してくるのみだ。

■異なる3つの物語が並行して進む

彼の十八番の手法である。陸・海・空の 3つのストーリーが順番に流れることでダイナミックに話が進んでいく。それぞれのストーリーは陸:10日、海:1日、空:1時間と異なるのだが、絡ませ方がとももうまい。最後には3つのストーリーが全部繋がるようになっている。

・陸

メインと言えるストーリー。ダンケルクから脱出する兵士達を描いている。救出のための船が海岸に来る→主人公乗り込む→敵艦の魚雷や砲撃を浴びて船沈没という流れでとにかく船が沈没する。主人公が乗った船は最後に救出される船以外全部沈没するのではないだろうか。タイタニックも顔負けの沈没風景が最新の技術を用いて描かれる。沈没する船から逃げる兵士達の自分が助かるためには他人をも蹴落とそうとする人間らしさも垣間見れる。

・海

英国から親子と近所の高校生を乗せた民間船がダンケルクへ救助に向かう。ダンケルクの戦いでは民間船が徴用されて救出に参加したというもの1つの特徴の様だ。父親は結構な歳なのだが、「自分達の世代が始めた戦争に子供世代を巻き込んでしまった」と自らダンケルクに向かう。第1次世界大戦が始まったサラエボ事件が1914年から第2次大戦が終結した1945年のポツダム宣言まで31年も戦争してたわけからそんな感覚なのかもしれない。ダンケルクに向かう途中、Uボートの魚雷にやられて沈没した船や空のストーリーで不時着したパイロットなどを救出しながらダンケルクに到着し、最終的に陸の主人公達を救う。重油が流れた海に飛行機が墜落し、海が燃え上がるシーンは圧巻だ。

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・空

ダンケルクでドイツ軍から襲撃される仲間を援護するため、3人の空軍パイロットがダンケルクへと向かうシーン。1人、また1人と墜落してしまい、最後は1人になってしまうがなんとかダンケルクに到着し、エンジンが止まりながらも敵機を撃ち落とし仲間から歓声を浴びる。だがそのままドイツ軍がいるエリアへ不時着し、ラストシーンでドイツ軍の捕虜になってしまう。

■セリフがほとんどない代わりに大迫力の映像

 この映画、台本がペラペラらしくセリフがほとんどない。特に陸の主役であるトミーはたまにしかしゃべらない。決してしゃべれないというわけではないのだが、その謎は終盤で明かされる。セリフが少ない代わりに空・海・陸からの戦争の風景がダイナミックに描かれる。全編IMAX70mmフィルムで撮影された映画としては、史上3作目らしい。これまでにはポール・トーマス・アンダーソンの「ザ・マスター」(2012)とクエンティン・タランティーノの「ヘイトフル・エイト」(2015)の2作品だけ。IMAX70mmフィルムで撮影すると超高解像度での撮影が可能だが、普通の映画館だと上下40%の映像がカットされてしまうんだとか。この作品はIMAXの映画館で観たほうがよさそうだ。(僕は普通の映画館で観てしまった。公開されている間にIMAXの劇場に行きたい…)

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■キャスティング

3つのストーリーが並行して進むため、明確な主役はいない。また、それぞれのストーリーで多くのほぼ無名のタレントを用いている(ただし、演技はうまい)。出演者の人気ではなく、映画の演出で興行収入が稼げると踏んだ、制作チームの自信の現れかもしれない。

そして、陸ではワン・ダイレクションのハリー・アレックスが登場している。しかし、プロモーションではハリーの出演を全く押し出していない。予告編でもほとんど出てこないくらいだ。これは、この映画が一人の人物に焦点を当てた映画ではなく沢山の登場人物が登場する群集劇だかららしい。マーケティングばかりでなく、内容にこだわりぬけば結果はついてくるという良い例かもしれない。

『ダンケルク』監督がハリー・スタイルズの出演を強調しない理由 ― 本人は俳優業引退を示唆? | ORIVERcinema

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一番左がハリー。恥ずかしながら、映画を観ている間は気づかなかった。

■最後に

いかがでしたでしょうか?観る気がなかったけど、気になったという方は是非IMAXシアターに足を運んでみて下さい。この作品をきっかけにクリストファー・ノーランの名声がさらに高まるかもしれません。ちなみに、彼のこの映画での報酬は契約金2億ドルに興行収入の20%となっており、史上最高だとか。興行成績は8月末時点ですでに4億ドルを突破しているみたいなので2億8千万ドル(約300億円)を超えてますね…この後も売れ続けるでしょうし、アカデミー賞最有力なんて言われてるみたいですから桁違いの収入を得ることは間違えないでしょう。

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