ダブルマリッジ読書感想

橘玲さんの新作小説「ダブルマリッジ」を読了したので記憶が鮮明なうちに書き残したい。

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久々に寝る間を惜しんで読んでしまう小説に出会った。電車・トイレ・風呂など少しの時間でも貪る様に読んでしまう。
終わりが近づくにつれて少しでも長く続けばと丁寧に読んでしまう。そして読了後に訪れる大きな喪失感ー。
 
商社勤務の妻子ある主人公がある日戸籍を調べたところ、見知らぬフィリピン人女性と婚姻関係にあることが発覚する。
主人公と娘の視点を交互に入れ替えながらストーリーが進みつつ、婚姻制度の解説が入る。
フィリピンで日本人と関係を持ったフィリピン人女性とその子供に日本国籍取得させることを生業とする国籍ブローカーも出てきて様々なスキームが紹介される。

「戸籍が修正されると、それに基づいて、子どもが幼い場合は母子の、二十歳以上なら子どもの日本滞在ビザを大使館に請求するんです」鴨川が説明をつづけた。「これは外国人向けのビザではなくて、戸籍上子どもが日本人と推定されることを前提としているので、大使館で領事のかんたんな面接を受けるだけで期間一年程度のビザが発給されます。母子の場合は、母親はフィリピン人ですから「子どもの養育のため」という名目になります。子どもが二十歳未満なら、国籍法によって、半年たつと日本に住所があると見なされて無条件で日本国籍の再取得ができます」

複雑怪奇な法律とその抜け穴を通るスキームを解説しつつ、ストーリが進んでいく仕立ては橘氏の小説では定番化している。

「永遠の旅行者」
取り扱っている法律についてはタイトル通りだが、永遠の旅行者だけは馴染みがないかもしれない。
税金は居住民に課される。居住民の定義は国によって異なるのだが、3つ以上の国を行き来してどこの国の居住民にならず、税金を払わない
パペチュアル・トラベラーに関する話だ。この小説もとても面白いので是非オススメしたい。
ちなみに、永遠の旅行者とタックスヘイブンは堀山という風俗経営者の男が共通して登場する。今回も登場を期待していたが最後まで堀山の名前は出てこなかった。ただ、フィリピンの空港で怒鳴ってた日本人が堀山を連想させたが…
 
これから結婚を考える人、既に結婚を知る人にとっては婚姻精度を学ぶ良い教科書となるだろう。また、物語の半分はフィリピン、それもスラムで展開される。読者にフィリピンのスラムの情景を想像させる。
裸の子どもたちが家の前で水浴びしている。店の壁は赤や緑に塗られ、そこに清涼飲料水や携帯電話のポスターがべたべたと貼ってある。2階の窓にはカラフルなTシャツやジーンズが満艦飾にびっしり干してある。
「このひとたち、いったいなにしてるの?」

 筆者はフィリピンに数週間いたことがあるのだが、マニラのマカティの描写などは懐かしい気持ちになった。

 「どこにつれていかれるんだろう……」
 そう思ったとき、車はようやく広い通りに出た。左右に高層ビルが建ち並び、オフィスから出てきた女の子たちが連れ立って歩いている。黒のビジネススーツ姿もいるが、ほとんどはジーンズにTシャツ姿の軽装だ。ところどころ建設途中のビルや、放置されて廃墟になった建物はあるものの、これまでとは雰囲気がまるでちがう。
「なんだ、あんがいふつうじゃん」
夫にとって妻はどこまでいっても他人で利害が一致しなくなれば対立する存在なんだなと感じた。血の繋がりがある親と子、兄弟はどこまでいっても家族なんだな…と。そして東南アジアのあの熱気が懐かしくなった。月並な感想だが読者の参考になれば幸いである。