なぜ日本のナンパクラスタは即数を競うのか?

■はじめに

ナンパクラスタとは、Twitter上でナンパ師やPUAと言われる人達の総称として用いている。このエントリーは彼らを批判する意図はない。同じナンパをするコミュニティでなぜこんなにも嗜好が違うのかという長年の疑問を整理したものだ。大部分を推測で書いているので事実と異なる点があれば是非指摘してほしい。

明治時代の日本人は新渡戸稲造著で欧米でベストセラーとなった「武士道」を読んで海外で日本人がどう見られているか知ったという。ナンパクラスタの方たちが外部の人間の目にはどう映っているのか知る一助となれば幸いである。

繰り返しになるが、この記事を読んで怒りを感じる人がいたら、それは僕の意図するところではない。表現には十二分に気を配ったつもりだが、ご指摘頂ければ即座に該当箇所の削除・修正を検討したい。

恐れはダークサイドに通じる。恐れは怒りに、怒りは憎しみに、憎しみは苦痛へ。

■ナンパクラスタオリンピア

最近、ナンパクラスタの間で大会が開催されている。

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こういう大会は業界の底上げにもなるし、新規参入者の呼び水にもなる。日本全国のナンパ師がもっと増えて、ナンパで幸せになる女の子が増えればもう少しナンパに寛容になるハズだ。

大会である以上、勝者と敗者を決めなければいけない。勝敗は当然の様にゲット数で決まる。恐らくこの方式にはナンパクラスタの人なら異論はないのだろう。大会での捏造などを問題視する声は聞こえても、勝敗の行方を即数に委ねることを疑問視する声は聞こえてこない。

そもそも、ナンパクラスタにおいては凄腕=たくさん即れる人という暗黙の掟があり、クラスタ内の序列も自然と即数で決まっている風潮があるのではないか。

 ナンパ師たちは年間何即したかを競い、Twitterのハンドルネームに即数を刻む。記事のタイトルに敢えて"日本の"と入れたのは米国のナンパ師達を描いたthe Gameでは異なる風景を見たからだ。この本を読んでナンパ業界の門を叩いた人は即数を競う風潮に違和感を覚えたかもしれない。

■神話の中のジェダイ

the Gameについて簡単に説明すると、ニール・ストラウスという記者がニューヨーク・タイムスを辞めた後、ナンパ師達のコミュニティについて本を書くことを決意する。そして、ナンパ師達の秘密のコミュニティに潜入し、そのメソッドを学んでいく。

彼らは自らをPuck Up Artist(ナンパを英語でPick Upと言う)と名乗り、招待制のオンラインサロンで日々テクノロジーを共有している。

ニール・ストラウスも「スタイル」というPUAに名を変え、長く厳しい道を登っていく。初めは非モテの極みだったニールもスタイルとして成長し、最終的には世界屈指のPUAに成長する。物語の中で様々なPUAが登場するが誰ひとりとして「俺は今年何人とやった」と言う者はいない。ニールが彼の師匠となる伝説的なPUA、ミステリーと出会ったシーンは以下の様に描写されている。

 「 君のトップスコアは?」 俺が腰掛けるなり、シンが身を乗り出して 聞いてきた。このときふたりはもう俺の品定めを始めており、俺が「ゲーム」と呼ばれるものを把握しているかどうか確かめようとしていたのだ。

(中略)

ミステリーから写真がぎっちり入ったマニラ封筒を手渡された。「 俺が デートした女たちだ」彼が言った。中には、すさまじい数のイイ女たちの写真が詰まっていた。

出典:the Game、STEP1 ターゲットを選ぶより 

ミステリーは今までどれくらいいい女とヤッてきたかことを誇示する。また、後半の箇所でPUAが自分のLTR*をセミナーに助手として参加させるシーンが出て来る。少なくとも、the Gameの中では誰が何人とやった。だから1番偉大だ。という記述は一切出てこない。
*Long Term ReLationshipの略で、いわゆるセフレ

オンラインコミュニティでの「最強のPUAは誰か?」というタイトルで以下の様な投稿がされる。 

スタイルがどれほどとんでもない男か、一つヒントをやろう。今、多くの 導師(グル)級の男たちが使ったり、教えたりしているテクニックのほとんどは、彼が考案したものだ。 実際のところ、彼は本質的に策略に長( た)けていて、俺が驚嘆すると同時に恐れを抱く男だ。彼が外見的にはむしろ十人 並みだという事実をこれに付け加えたら、君には誰が最高のジェダイかが分かるだろう。文句なしにな。

出典:the Game、STEP6 心のつながりを築くより 

彼らは自分のトップスコアに加えて、コミュニティへの貢献度でフォースの偉大さを測っている様だ。では日本ではなぜ即数なのか?いや、我が国でも即数以外の指標がナンパ師の偉大さとして測る文化がある。ブログの面白さだ。

■伝説の凄腕ブロガー達

2013年頃、ストリートナンパもできなかったのでひたすら界隈をウォッチし、先人達のブログを読み漁っていたのだが(その頃はまだ「ケーゴのフィールドレポートとコミットメント」も、「俺の遺言を聴いてほしい」も、「これからのカネと女の話をしよう。」も存在しなかった。*ブログ開始順)ナンパノウハウの伝達力、面白さ、クオリティどの面でも面白いものがたくさんあった。

asapenさん、ikasuiさん、キャリーさん、ハイクさん、ピトーさん(五十音順)のブログは常にチェックしていて、更新があったら真っ先に読んだ。1つ1つの記事から彼らの魂を感じた。

巨匠達は皆引退してしまい、今でも火の鳥さんの様なハイクオリティなナンパブログは見かけるが、昔に比べると数は少ないと言わざるを得ない。

ナンパはイマジネーション

クオリティの高いブログの減少は即数主義の繁栄と因果関係がある。

即数を求めることは、時間的・金的リソースを全てナンパに投下することを意味する。元々優れたPUAが持ちうる時間・金を全て投下してやっと到達できるのが年間最大即数の栄光であり、ブログなんて書いている時間はないのだ。

悲しいかな、そんな生活はずっとは続けられない。それ故に多くのナンパ師は必ず引退していく。僕が愛した偉大な先人達はほとんどいなくなってしまった。ごく少数の導師(グル)のみがその道を極め、ナンパで生計を立てる専業ナンパ師になり、若きスカイウォーカーを指導するヨーダのごとくナンパ業界に君臨しつづける。

そんなヨーダ達もトータルのゲット数を必ず掲げている。キャリア通算得点を掲げるロマーリオの様に。なぜナンパ師は即数を競うのか?

■匿名性のジレンマ

the Gameに登場するPUA達と日本のナンパクラスタの面々との決定的な違いを1つ挙げるとすると、専業かどうかだ。日本で専業ナンパ師(ナンパビジネスで生計を立てている人)は数える程しかいない。一方で、the Gameに登場するPUA達はミステリー、シン、スタイル、デアンジェロ、パパ、タイラー・ダーテン、エクストラマスク、グリンブルみんな仕事なんてしてなかったし、ナンパだけだ。それに彼らのTwitterアカウントを見に行くと、決まって顔写真を上げている。

サラリーマンをやりながらナンパ活動をする場合、1番大切なのは匿名性だ。誰も会社の同僚に夜な夜なナンパに繰り出しているなんて知られたくないだろう。

当然、女の子にも自分がナンパ師であることは明かさない。(the GameではPUAということを女の子に普通に打ち明けている。)そうすると、"自分がいかに可愛い子をゲットしたか?"は仲間内のLINEや合流した時に誇示することはできてもネットの広い海では公表することはできない。

ゲットした女の子の質で評価できない以上、ゲット数しか選択肢がなくなるので当然の帰結だろう。

匿名性を保ったまま優劣をつける方法はゲット数しかなくなる。それ故にゲットした証拠の審査は非常に厳しいと推測される。リベンジポルノが一般化する前はTwitterのタイムラインに即画像と言われるものが毎朝流れていた。即画像こそゲットの証拠であり、凄腕の証明である。今はTwitterでこそ見ることはなくなったが、彼らの何気ない「即」というツイートの裏には仲間内での証拠提出がされていることは想像に難くない。

■美女ナンパという新ジャンル

即数をひたすら積み重ねるデッドレースに一石を投じたブロガーがいた。チバさんだ。

ブログのクオリティは素晴らしく、美女ナンパシリーズは全部読まさせて頂いた。しかし、悲しいかな彼もサラリーマンナンパ師だ。専業ナンパ師でない以上、匿名性を保持しなければいけない。彼がゲットした美女の美しさは文章から想像することしかできない。

新宿ナンパ大戦争Ⅱ

短距離走とマラソン

即数を重視するナンパと美女ナンパ。同じ声をかける行為だが性質は全く異なる。そう、走るということは同じだが短距離とマラソンに必要な技能・トレーニングが全く異なる様に。これはどちらがいいとか上とかそういう話ではない。

ただ、競技として違うのだ。ずっと即数を積み重ねるナンパをしてきた人がある日美女ナンパに突然切り替えることは難しい。

ナンパを始めた時、美女を抱きたくて始めたのか、とにかくたくさんの女を抱きたくて始めたのか、今一度振り返ってみてもいいかもしれない。

■新たなる希望

登場した当初こそは批判を浴びていたnoteとシナプスだが、一般化した印象がある。これまでナンパでマネタイズするといえば、昔ながらの実施講習しかなかったが、これらによりナンパ業界におけるマネタイズ手法が広がった。ITによるイノベーションがナンパ業界にも到来したのである笑

noteとシナプスにより、ユーザーのナンパ業界への課金ハードルは下がった。当然ナンパ業界のマーケットは広がった。即ち、専業ナンパ師になるハードルも下がった。

新たな専業ナンパ師の中にはゲット数でなく、ゲットの質を売りにする者もいるかもしれない。匿名性を保持する必要がない専業ナンパ師ならそれが可能だし、オンラインサロンなどのある程度クローズドな環境でも同じく可能だ。(すでに行われているかもしれない)

2017年は年間何即!と競っている声も去年までよりは聞こえなくなってきている。時代が変わってきているのかもしれない。

■もともと特別なOnly One

我々の遺伝子が形づくられた石器時代、僕達の先祖は50〜100人のコミュニティで移動しながら生活していた。他の男達より優れている者がいい女を抱くことができた。男である以上、他の男と競争することは遺伝子に宿命付けられている。

しかし、100人が競争すればそこには1人の勝者と99人の敗者が生まれる。競争に参加するということは高い確率で敗者になることを意味する。

今AbemaTVで話題のSMAPは最大のヒット曲「世界に一つだけの花」で「No.1にならなくてもいい もともと特別なOnly One」と歌った。

そもそも、他者と序列をつける必要はあるのか?石器時代では仲間うちで序列をつけることに大きな意味があった。美女の獲得である。しかし、ナンパコミュニティで序列をつけて得られることは何だろう?専業ナンパ師は売上のリターンがあるだろう。

サラリーマンナンパ師達は何を求めてゲット数を競うのか。名声、承認、名誉…それとも王の称号だろうか。最後に、世界に一つだけの花の歌詞の僕なりの解釈を記す。

戦う相手を"他人"から"自分"に変えれば、全員が勝てる可能性がある。