観た気になれる?サントラで振り返る映画「T2 トレイン・スポッティング」

20年前の映画「トレイン・スポッティング」の続編が日本でも公開された。

*この先ネタバレ内容を含むので注意

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前作トレイン・スポッティングではスコットランドでヘロインにはまる青年達を描いた。低予算で作られた映画はイギリスを始め世界中で大ヒットし、主人公を演じたユアン・マクレガーと監督ダニー・ボイル出世作となった。映画のバックグラウンドを彩る音楽も豪華。アンダー・ワールド、イギー・ポップニュー・オーダーと錚々たる面子。今回はユアン・マクレガーを始め監督もダニー・ボイルのまま、他のキャストも20年ぶりに集結しての続編となった。

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High Contrast - Shotgun Mouthwash/Lou Reed - Perfect Day

T2のオープニングはある男がランニング・ランニングマシンで走るシーンから始まる。この男こそ主人公・マーク・レントンでオランダはアムステルダムに潜伏していた。

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 ランニング・マシンで走る主人公やヨハン・クライフの映像、2014年ワールド・カップのロビン・ファンペルシーが聖イケルとスペインを沈めたスーパーヘッドの映像や前作のラストシーン、チューリップ、風車などでアムステルダムを連想させる。突然倒れてしまい、過去の映像に。ここではピアノの旋律で「Perfect Day」が流れる。この曲は前作ではレントンがヘロインを打ちすぎて痙攣を起こして病院に運ばれるシーンで使われていた。

 その後は狂犬ベグビーの登場シーンとなる。彼は前作ラストシーンの大暴れで刑務所に収監されていた。(元々追われる身だった)

マークがエディンバラに帰ってくると同時に、ベグビーも刑務所を脱獄する。映画の途中まで2人は出会うことなく物語は進んでいくがー

Underworld - Born Slippy

前作のラスト・シーンで流れるのはアンダー・ワールドのBorn Slippy。前作ではスコットランドエディンバラを舞台にヘロイン中毒の若者レントンとその仲間たちがナンパしたり、ケンカしたり、万引きで捕まって投獄されたり、ロンドンに行って不動産屋で働いたりと愉快な毎日を描く。最後は仲間と一緒にマフィア相手にヘロインの取引を成功させて大金を儲けるが主人公が全員での取り分1万6000ポンド持ち逃げする。

 地元の仲間達と一緒にヘロインの取引で1万6千ポンドの収益を出すも、仲間を出し抜いて掻っ攫っていってしまう主人公。ソウル・メイトとも呼べる彼らを裏切ってまでなぜ金が欲しかったのか?自分がワルだったからだと自答する。彼の目的は地元を抜け出してヤクを断つことが目的だった。(仲間の裏切りを絶対に許さない喧嘩中毒のベグビーがいるため地元には戻ることができなくなる。)橋を歩きながらレントンは我々に独白する。「明日から変わる。綺麗になって人生を選ぶ。既に楽しみになってきている。明日からあんた達と同じ暮らしだ。仕事、家族、クソでかいTV…」

トレインスポッティングと言ってよく使われる引用「Choose Life」今作の中でも2019年版になってリバイバルしている。「人生を選べ」1980年代に英国で使われた麻薬撲滅スローガンをジャンキー達が面白がって引用した。「人生を選べ。仕事に家族…」この引用は冒頭にも使われている(後ほどLus for Lifeで紹介)

2019年Choose Lifeは 

 “Choose life人生を選べ

Choose Facebook, Twitter, Instagram and hope that someone, somewhere cares

フェイスブックツイッター、インスタグラムを選べ。誰かのいいねを期待しろ
Choose looking up old flames, wishing you’d done it all differently
And choose watching history repeat itselfChoose your future Choose reality TV, slut shaming, revenge porn
Choose a zero hour contract, a two hour journey to work And choose the same for your kids, only worse, and smother the pain with an unknown dose of an unknown drug made in somebody’s kitchen And then… take a deep breath You’re an addict, so be addicted Just be addicted to something else Choose the ones you love Choose your future Choose life”

SNSについて冒頭で触れられている。SNS橘玲さんが世の中の形を大きく変える可能性があるといわれていた。
前作のヒロイン、ダイアンはヘロインをやめてマリファナ煙草を吸うレントンに対して「ハシシんて吸ってる老けていっちゃうわよ」と言い放った。
(該当のシーンは48秒より)「世界は変わる、音楽も変わる、ドラックだって最新のものに置き換わっていく…」では前作から20年経った最新のドラックを今作は観せてくれるんじゃないかと思って僕は映画に臨んだ。20年前になかったもの。SNSは新しいつながりであり、多くの承認欲求ジャンキーを生み出しているのは確かだろう。だが、マーク・レントンそしてダニー・ボイルSNSについては深くは触れなかった。

この曲は僕の中ではこの局はアンダー・ワールドの代表作であり最高傑作だと思う。そんな曲と若き日のダニー・ボイルユアン・マクレガー

色々なバージョンがあるけど、1997年のフジロックでのライブも出てくるEverything Everythingが一番好きだ。

2011年のサマーソニックの前夜祭的イベント、ソニックマニア :通称ソニマニでアンダーワールドが来日したことがあったので僕は彼らを生で聴く機会に恵まれた。オリンピックの開会式でプレイしたDJとしても有名だ。 

そんな金を持ち逃げした主人公:マーク・ レントンが20年ぶりにエディンバラから帰ってきた。

Blondie - Dreaming

マークが行ったChoose Lifeの次のシーンではポップな音楽とともにT2のヒロインベロニカとのセックスシーンが始まる。

 読者のみなさんはこのシーンには違和感を持ってほしい。自分より一回り以上若いギャルに対して40過ぎのおっさんが1990年代の話しを力説してもキモがられるだけだ。これは伝説的なスターであるユアン・マクレガーだから通用しているだけだ。もしくはフォースを使っているに違いない。

Underworld - Slow Slippy/Queen - Radio Ga Ga

前作ではおかまいなしに連発したヘロイン・シーンだが、今回は1度だけ登場する。

ここでも音楽はアンダー・ワールド。「Born Slippy (Nuxx)」のリ・ワーク・ヴァージョン「Slow Slippy」 が使われている。死んでしまった旧友のトミーの墓参りの途中、マークとシックボーイはお互いを罵り合う。そこからお互い20年間ずっと吸っていなかったヘロインに手を出すことになる。ヘロインを注射器に吸い上げる映像、注射からヘロインが体内に入っていく映像は前作のものを利用していると思われる。鹿が部屋中を走り回るプロジェクターが格好いい。Queenの「Radio Ga Ga」が流れるクラブでのシーンに切り替わる。

観客全員が一体となって歌うクラブ内にはマークの命を狙う凶暴なベグビーが。今話題のバイアグラを飲んで待ち構える。

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 ■Iggy Pop - Lust For Life

プロジェクション・マッピングについては大量にお金を盗んだに車で逃走するシーンでも出て来る。プロテスタントの集まりで大量のクレジットカードを拝借したマークとシックボーイ。プロテスタントにとって伝説的な出来事があった年号を暗証番号に入れて次々と大金をゲットしていく。

車に映るジョージ・ベストスコットランドの労働階級の男はサッカーの話ばかりしている様だ。

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Lust for Lifeと言えば、前作のオープニング曲としても使われていた。冒頭ではレントンがchooseライフを演説しながら警備員から走り逃げるシーンから始まる。主人公達が万引きして警備員から逃げながら街中を走り回るシーンは印象的だ。

■Wolf Alice - Silk/Iggy Pop - Lust For Life

ラストシーンではマークとレントンが稼いだ金をヒロインが盗んでいってしまう。マーク、シックボーイともに寂しそうに残るレントン。ライスシーンも前作のオマージュとして仲間の金をパクるという行為が行われる。ここでは予告編で使わられていたWolf Alice。部屋に戻ってまたイギー・ポップが流れる。現代風にアレンジされたリミックス版。これじゃあダイアンもシギー・ポップなんて呼べやしない。

■原作との違い

原作も読んだので映画との違いについて述べたい。原作は元々2003年に出版された「トレインスポッティング ポルノ」となっており、トレインスポッティングの9年後の世界となっている。そのため、登場人物達の年齢が全然違う。原作は30代中盤、映画は40代。また話の内容も大きく変わっている。原作ではシック・ボーイがほぼ主人公となり、ポルノ・ビデオを制作するという内容になっている。映画では世界的スターとなったユアン・マクレガーを脇役にすることなどできず、前作に引き続きマーク・レントンが主役となっている。原作ではニッキー・フラー・スミスという女子大生がマドンナ役として登場する。彼女がベースとなって今回のベロニカ像が作られたと思われる。

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話の大半はAV撮影の話で進んでいく。シック・ボーイがビョーキ野郎たる所以がわかるストーリーが続く。出演者を裏切り、レントンとともに大金を稼ぐ。最後はその金をレントンが持ち去るー映画版とはまったく異なるラストシーンとなっている。

同名の原作小説を書いたアーヴィン・ウェルシュは処女作のトレイン・スポッティングデビューで映画が世界中で大ヒットし一躍有名人に。村上龍がデビュー作の「限りなく透明に近いブルー」で有名になったのが連想される。彼はヘロインではなく、コカイン・ハシシ、黒人との乱交などを描いて日本中に衝撃を与えたという。ただしトレイン・スポッティングと違って映画は大ゴケしてしまった。本人が監督だったということも影響しているかもしれない。天は二物を与えずだ。 

 

T2 トレインスポッティング(上) (ハヤカワ文庫NV)